「薄毛」という生活の前科歴

数年前、ハリウッドの有名女優が、乳がんを予防する目的で、がんのない乳房を切除したニュースが世界をめぐりました。彼女がこの決断に踏み切った理山は、「母親が乳がんで亡くなり、自分にも乳がんを起こす遺伝子が見つかった」というものです。

私は、がんや生活習慣病もそして若々しさも毛髪も、遺伝子よりも後人的な生活習慣のほうが重要なカギを挑っていると考えています。たとえがんを起こす遺伝子を持っていたとしても、必ずがんになるとは限らないのです。

なぜなら、がんの発症には、エピジェネティクスによって変化したエピゲノムが関与しているからです。たとえば、がんになりやすい食べ物ばかりとったり、がんを起こしやすい食生活を続けていたり、そうした環境に仕み続けていたりすると、エピゲノムががんを起こすように修飾されていきます。結果、人はがんを発症します。

これは薄毛の進行にも当てはまります。私たちは人それぞれさまざまな環境で生き、飲み食いすることで、細胞にエピジェネティクスな変化が生じ、薄毛が起こるのです。

そう考えると、エピゲノムはまるで自らの行動を示す「前科歴」のようなものだと思えてきませんか。不摂生が限界を超えて蓄積された時点で、目に見える形で細胞死や細胞老化が起こり、それらは「刑務所行き」になります。

薄毛に置き換えていえば、無意識にも頭髪をいじめるような生活を続けていると、髪の毛をつくり出すあらゆる細胞や組織が壊れて毛の再生能力を失い、抜け落ちて頭皮をさらして生きなければならなくなるということです。

ですから、「母方のおじいちゃんがハゲている」と遺伝性を恐れることはないのです。本当に恐れるべきは、遺伝子よりも悪しき生活習慣です。

そもそも、私たちの体は約37兆個の細胞からなっていますが、始まりはたった1個の受精卵でした。受精卵のDNAのコピーをくり返しながら細胞分裂し続けることによって体は成り立っています。腸をつくる細胞も、頭皮の細胞も、毛髪をつくる細胞も、もとを正せば一つの受精卵から始まっているというわけです。

なぜ、一つの受精卵から異なる組織が次々に現れるのでしょうか? 答えは、使っている遺伝子が異なることにあります。

すべての細胞は同じ遺伝子を持ちあわせていますが、使っている遺伝子は異なります。その違いは、エピジェネテイックな機構によってなされたものです。細胞ごとに使わない遺伝子は制御され、不活性な部分に押し込められるのです。

このエピジェネティックな変化を起こす、もっとも大事な要素の一つが食事です。

食べるものによってエピジェネテイックな変化は起こってくるのです。

たとえば、母親のとる栄養は、遺伝子以上に胎児の成長に影響を与えることが、動物実験でも確かめられています。「アグーチイエロー」と呼ばれているネズミがいます。その種類のネズミの遺伝子には余計なDNA情報があるので、肥満体であり、さらには体の毛が黄色であるという特徴を持っているのです。この「アグーチイエロー」のメスのネズミに普通のエサを食べさせると、子供は母親と同じ黄色の体毛を持って生まれてきます。しかし、妊娠前、妊娠中、妊娠後期にわたり母親ネズミにビタミンB12、葉酸、コリン、ベタインを食べさせると、体毛が黄色ではなく褐色であり、さらにはスリムな子が生まれてくるのです。

このように薄毛になったり、ハゲで悩んだりする原因は遺伝子のせいなどではなく、生活習慣のせいと言えるのではないでしょうか。